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名古屋地方裁判所 昭和62年(ワ)337号 判決 1988年7月22日

原告

佐野忠志

原告

青木正幸

右原告ら訴訟代理人弁護士

福岡宗也

山本健司

熊田均

被告

ジャパン・ハワイ・ファイナンス株式会社

右代表者代表取締役

高柳十三三

右訴訟代理人弁護士

吉田康

岡島章

主文

一  被告から原告佐野忠志に対する名古屋法務局所属公証人桑原一右作成昭和五九年第九〇六号金銭貸借契約公正証書に基づく強制執行は、これを許さない。

二  被告から原告青木正幸に対する名古屋法務局所属公証人桑原一右作成昭和五九年第五九七号金銭貸借契約公正証書に基づく強制執行は、これを許さない。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  本件につき当裁判所が昭和六一年一二月二三日になした昭和六一年(モ)第一一一三号強制執行停止決定及び当裁判所岡崎支部が同年同月一八日になした同年(モ)第七一九号強制執行停止決定は、いずれもこれを認可する。

五  この判決は前項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

第一事件につき主文一、三項同旨。第二事件につき主文二、三項同旨。

二  請求の趣旨に対する答弁(第一、二事件)

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因(第一、二事件)

1  原告佐野忠志(以下、「原告佐野」という。)と被告間には、被告を債権者、原告佐野を債務者とする名古屋法務局所属公証人桑原一右作成昭和五九年第九〇六号金銭貸借契約公正証書が存在し、右公正証書には、

(一) 被告は原告佐野に対し、昭和五九年九月一八日、金二〇〇万円を貸付けた。

(二) 利息は年一割五分とし、毎月一日にその日までの経過分を支払う。

(三) 元金は昭和五九年一〇月一日より昭和六七年三月一日まで毎月一日限り金二万二二〇〇円宛(但し最終回は金二万四二〇〇円)計九〇回に分割して支払う。

(四) 期限後は完済に至るまで年三割の割合による違約損害金を支払う。

(五) 原告佐野は、本契約に違背した場合は期限の利益を失い、何らの手続を要せず直ちに全債務を完済する。

(六) 原告佐野は、本契約に基づく右債務を履行しないときは直ちに強制執行に服する。

旨の記載がある。

2  原告青木正幸(以下、「原告青木」という。)と被告間には、被告を債権者、原告青木を債務者とする名古屋法務局所属公証人桑原一右作成昭和五九年第五九七号金銭貸借契約公正証書が存在し、右公正証書には、

(一) 被告は原告青木に対し、昭和五九年四月一二日、金三〇〇万円を貸付けた。

(二) 利息は年一割五分とし、毎月一日にその日までの経過分を支払う。

(三) 元金は昭和五九年五月一日より昭和六七年八月一日まで毎月一日限り金三万円宛計一〇〇回に分割して支払う。

(四) 期限後は完済に至るまで年三割の割合による違約損害金を支払う。

(五) 原告青木は、本契約に違背した場合は期限の利益を失い、何らの手続を要せず直ちに全債務を完済する。

(六) 原告青木は、本契約に基づく右債務を履行しないときは直ちに強制執行に服する。

旨の記載がある。

よって、各公正証書の執行力の排除を求める。

二  請求原因に対する認否(第一、二事件に対して)

請求原因事実はいずれも認める。

三  抗弁(第一、二事件に対して)

被告は、昭和五九年八月二二日、被告の名古屋支店において、原告佐野から金二〇〇万円を、同年三月二二日、同所で原告青木から金三〇〇万円をそれぞれ土地購入資金として借受けたい旨のローン申込を受け、これに応じて同年九月一八日原告佐野と、同年四月一二日原告青木と、それぞれ金銭消費貸借契約を締結し、原告らから公正証書作成委任状の交付を受けて、訴外小山和男において原告らを代理し、各公正証書を作成したものである。

四  抗弁に対する認容(第一、二事件)

抗弁事実は、ローン申込の日時を除き認める。ローン申込の日時は、原告らがそれぞれ消費貸借契約を締結した当日である。

五  再抗弁(第一、二事件)

1  土地売買契約の公序良俗違反

(一) 土地売買契約の締結

原告佐野は、株式会社サンライフホーム名古屋(以下、「サンライフホーム」という。)から昭和五九年八月二一日、別紙物件目録一、二記載の土地を代金二九四万円で買受け、原告青木は、株式会社菱重観光開発(以下、「菱重観光」という。)から昭和五九年三月一九日、別紙物件目録三、四記載の土地を代金七〇八万五四〇〇円で買受けた。

(二) 右土地の価格

別紙物件目録記載の各土地(以下、「本件土地」という。)の時価は、一平方メートル当たり約一〇八〇円にすぎないにもかかわらず、原告らは、右土地を一平方メートル当たり約二万九四〇〇円(時価の約二七倍)で売りつけられた。

(三) 契約締結に至る経緯

(1) 当時サンライフホームの社員であった池田暁彦(以下、「池田」という。)は、昭和五九年八月一二日、原告佐野方を訪問し、本件土地は同原告の購入価格に比して著しく低廉なものであり、将来その価格が騰貴する可能性も全くないものであったにもかかわらず、右事情を十分認識しながら、工場労働者である同原告の無知・無思慮に乗じ、同原告に対して本件土地の現況、立地状況、その他の重要事項について何ら説明をせず、「銀行に預金するよりも今土地を買って高くなったときに売るほうが有利だ。」「この土地は必ず値上がりする。」「今までも土地の値が上がったという客からお礼を受けた。」「いつでも解約できる。」等と申し向け、同原告の購買心をあおり、本件土地が購入価格どおりの価値があり、将来必ず値上がりすると誤信させて、同原告に考慮の余裕を与えずに売買契約を締結せしめたものである。

(2) 池田(当時は菱重観光の社員であった。)は、昭和五九年三月一九日、原告青木方を訪問し、本件土地は同原告の購入価格に比して著しく低廉なものであり、将来その価格が騰貴する可能性も全くないものであったにもかかわらず、右事情を十分認識しながら、工場労働者である同原告の無知・無思慮に乗じ、同原告に対して本件土地の現況、立地状況、その他の重要事項について何ら説明をせず、「銀行に預金するより有利だ。」「この土地は将来必ず値上がりするから今買っておけば絶対に得をする。」「菱重観光が五年後に買い戻す。」等と申し向け、同原告の購買心をあおり、本件土地が購入価格どおりの価値があり、将来必ず値上がりすると誤信させて、同原告に考慮の余裕を与えずに売買契約を締結せしめたものである。

(四) 右の如きサンライフホーム、菱重観光の一連の行為は、原告らの無知・無思慮に乗じて、二束三文の本件土地を高価に売りつけたもの(いわゆる原野商法)であって、単なる詐欺行為であるとの評価にとどまらず、さらに悪質極まりないものであって公序良俗に違反すると評価されるべきものである。従って、本件土地売買契約はいずれも無効であり、原告らは、売主であるサンライフホーム、菱重観光に対し、代金の支払も拒めるものである。

2  被告への抗弁の対抗

原告らは、サンライフホーム、菱重観光に対して主張しうる売買契約無効の右抗弁を、以下にのべるような、被告とサンライフホーム、菱重観光との緊密な一体的関係ゆえに、被告に対しても対抗し得るものである。なお、被告とサンライフホーム、菱重観光の緊密な関係を判断するにあたっては、新和興産株式会社(以下、「新和興産」という。)が、サンライフホーム、菱重観光に本件土地の販売委託をなしていることから、サンライフホームと菱重観光を新和興産と一体と見て、被告と新和興産の関係をそのまま被告とサンライフホーム、菱重観光の関係とみるべきである。

(一) 被告と新和興産の関係

原告らは、被告とは本件金銭消費貸借契約以前に一切取引をしたことはなく、新和興産及びその委託を受けた訴外サンライフホーム、菱重観光の斡旋によって初めて取引するようになったのであり、新和興産が被告を原告らに紹介した行為は、改正割賦販売法における「割賦購入あっせん」の類型に該当する。ところで、本件契約は、改正割賦販売法の施行前のものであり、また、対象が土地であることから、同法をそのまま適用することはできないが、同法三〇条の四の抗弁の切断の趣旨を類推すべきである。そして、被告の原告らに対する融資手続においては、面接日の大半を新和興産が指定し、抵当権設定契約作成委任状等の抵当権設定に必要な書類を新和興産に手渡す等、新和興産にかなりの部分を依存している。特に、抵当権設定については、被告は、新和興産に代理人的活動を許容している。また、被告については、新和興産のような提携会社から持ち込まれる融資が、全体の二〇〜二五パーセントを占めており、提携によりコンスタントに客を紹介してもらえるメリットがあったのであり、被告は、新和興産を利用することによって自己の利益を図るという関係にあった。

(二) 本件土地売買契約の公序良俗違反についての被告の悪意または重過失

被告は、本件金銭消費貸借契約の担保として、本件土地に抵当権を設定しており、物件調査によって、本件土地の価値を容易に知り、あるいは知り得るはずであるのに、物件の担保価値を全く考慮せず、あるいは二の次に考えて原告らに金銭を貸付けたものである。さらに、本件契約当時、いわゆる原野商法は、社会問題化されており、昭和五八年の一〇月には、菱重観光等を相手として損害賠償訴訟が提起され、新聞にも報道されていた。このような社会情勢の中で、菱重観光の池田によって、原告青木が、本件土地購入資金の融資を受けるために被告に紹介されたのであり、被告が菱重観光の悪徳商法について不知であったとは考えられず、また、右土地と同じ場所にある本件土地の購入資金の融資を受けるために、サンライフホームの社員となった池田が原告佐野を被告に紹介したのであるから、サンライフホームが、菱重観光の悪徳商法を継続している事実も十分承知していたものである。

以上のように、被告は、サンライフホーム、菱重観光の商法を十分チェックできる立場にありながら、新和興産に依存し、時には代理人的活動を許容しながら、その商法を利用して自らも経済的利益を得ていたのであり、新和興産及びその委託を受けたサンライフホーム、菱重観光と一体となって原告らを欺いたと評価できる。よって、公平の見地からも、自分の利益追求のために新和興産を利用した被告に、抗弁の切断という保護を与える必要はなく、原告らは、サンライフホーム、菱重観光に対して主張できる本件土地売買契約の無効を、被告にも対抗できるものである。

六  再抗弁に対する認否(第一、二事件に対して)

1  抗弁1項の事実中、原告佐野とサンライフホーム、原告青木と菱重観光の本件土地に関する売買契約の締結の事実は認めるが、その余は不知。

2  抗弁2項の主張は争う。被告は、融資に際し、物件の相場価格について調査をしていたが、一般に不動産の価値の判定は容易ではなく、特に本件土地のような別荘地は、宅地に比べ流通性が劣り、その判定はより困難である。当時、本件と同様な土地が同様な価格で多数販売されていたというのであるから、むしろそのような価格が当時の取引相場ともいい得る状況にあったのであり、本件土地が無価値であるとも言えないし、被告が無価値と知って融資を行ったともいえない。また、被告は、新和興産から土地購入客の紹介があると、主として申込者の勤務先、給料額、人物等に基づき、返済の確実性に重点を置いて融資適格を判断し、適格者に対する融資を実行していたもので、他の通常の金融機関の融資手続と何ら異なるところはなく、これをもって新和興産と密接な関係があったと評価することはできない。原告らが本件土地を購入した動機において、思惑違いがあったとしても、土地の売買契約と金銭消費貸借契約とは別個独立の契約であって、本件各金銭消費貸借契約の効力には何ら影響を及ぼすものではない。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因事実は当事者間に争いがない。

二抗弁事実は、ローン申込の日時(この点は後に判断する。)を除き当事者間に争いがない。

三再抗弁1項の事実につき判断する。

1  原告佐野とサンライフホーム、原告青木と菱重観光間の本件土地の売買契約締結の事実については当事者間に争いがなく、これと<証拠>を総合すると、以下の事実が認められる。

(一)  原告佐野は、高校卒業後、トヨタ自動車株式会社に勤め、本件土地売買契約締結当時は、トヨタ車体株式会社において自動車製造の仕事をしており、土地の売買には不慣れであった。

(二)  昭和五九年七月の終わりごろ、当時サンライフホームの社員であった池田が原告佐野の自宅を訪問し、別紙物件目録一、二記載の土地の購入を勧め、地図を示して、「近くにゴルフ場やホテルができて必ず値上がりする。」「銀行の利息よりはるかに得である。」「もし値上がりしなければ、いつでも金がほしくなったら解約できる。」等と本件土地購入のメリットを強調し、以前に土地を買った人の住所や名前を書いた紙を見せて、値上がりして感謝されている旨告げ、さらに、「サンライフホームは名古屋中経ビルの経済新聞社の上にあり信用できる。」等とサンライフホームの信用性にも言及した。

(三)  原告佐野は、資金面での不安はあったものの、池田の話を信用し、右当日、手付金の一部として金一万円を池田に支払い、その余の支払のため、池田に印鑑を預けて銀行預金を引き出させ、昭和五九年八月二一日までに手付金として金五八万八〇〇〇円を支払い、右同日、代金二九四万円(一平方メートル当たり二万九四〇〇円)で右土地につき売買契約を締結し、残金の支払については、後に認定するように、被告から金二〇〇万円の融資を受けて一括して支払い、月々被告に返済することとした。

(四)  その後、原告佐野は、昭和五九年中に、本件土地を実際に見たところ、とても値上がりするような土地とは思えず、また売買代金に見合う土地とは思えなかったので、サンライフホームに電話で解約を申入れたところ、もう半年割賦金を払い続ければ解約に応ずる旨の回答であったので、半年後に再び電話をしたが話に応じてもらえず、さらに池田から、解約するならもう一つ別の物件を購入するように言われたが、これを拒んだため、結局解約はできなかった。

(五)  原告青木は、中学卒業後、日本電装株式会社に就職し、本件土地売買契約締結時は、ヒーターの製作の仕事をしており、土地の売買には不慣れであった。

(六)  昭和五九年三月一二日ころ、当時菱重観光の社員であった池田ともう一名が原告青木の自宅を訪問し、別紙物件目録三、四記載の土地の購入を勧め、本件土地とは異なり整地された土地の写真を示して、「五年くらいで確実に値上がりし、家一軒くらいは建てられるので銀行預金金利より有利だ。」「五年くらいしたら菱重観光が土地を買戻す。」等と土地購入のメリットを強調した。

(七)  原告青木は、資金面での不安はあったものの、池田らの話を信用し、昭和五九年三月一九日、代金七〇八万五四〇〇円(一平方メートル当たり二万九四〇〇円)で右土地の売買契約を締結し、右同日、池田らと一緒に保険会社に行って金を下ろし、手付金及び内金合計金四〇〇万二九七六円を池田らに交付し、残金の支払については、後に認定するように、被告から金三〇〇万円の融資を受けて一括して支払い、月々被告に返済することとした。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  また、<証拠>によれば、本件土地は、昭和五八年一〇月一日現在の人口が一万〇一二〇人で、志摩半島北部に位置する三重県志摩郡磯部町の山田地内にあり、近鉄志摩線上之郷駅の東方約四キロメートルに位置し、標高四〇メートル程度の丘陵地帯にある雑木林地で、巾員約四メートルの舗装私道があるものの特段の施設はなく、最近利用の形跡は見られず、当分の間は現況の雑木林地のまま推移するものと予測され、本件土地の実際の時価は、一平方メートル当たりせいぜい約一〇八〇円程度であると認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

3  さらに、<証拠>によると、菱重観光は、いわゆる原野商法により愛知県下で多くの被害者を生ぜしめたとして訴を提起され、損害賠償を命じる判決を受けている株式会社太陽ホームと多くの社員が共通し、実体はほぼ同一のものであり、また、サンライフホームは、菱重観光と多くの社員が共通し、菱重観光が形を変えて営業活動を継続しようとしているものと認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

4  以上の事実を総合すれば、本件土地は最寄りの鉄道駅まで四キロメートルも離れた雑木林地で、時価一平方メートル当たり約一〇八〇円にすぎず、開発・発展に伴う地価の騰貴の可能性が極めて少ないのに、サンライフホームないし菱重観光の社員であった池田において、原告らに対し、本件土地に関する十分な説明・資料提供もせず、近年中にゴルフ場、ホテル等が建ち必ず値上がりし、銀行預金より得であり、また値上がりしない場合には容易に解約に応ずる等と説明して原告らに本件土地の購入を勧め、池田の説明を信じ購買心をあおられた原告らに、一平方メートル当たり二万九四〇〇円という時価の約二七倍もの高値で本件土地売買契約を締結せしめたものと認められる。もっとも、原告らが、右購入に際して、自ら的確な情報提供を要求、あるいは現地調査する等して、十分考慮する機会を求めなかった点は軽率・無思慮とのそしりを免れないところであるが、池田の右に認定したような売込態様は、原告らに正しい情報を与えず、考慮の余裕を与えないようにして、原告らの無知・無思慮に乗じたものであり、商道徳を著しく逸脱した方法により暴利を博する行為と言わざるを得ず、結局本件売買契約は、いずれも公序良俗に違背して無効なものと言うほかない。よって、原告らは、本件土地の売主であるサンライフホーム、菱重観光に対し、代金の支払を拒めるものである。

四再抗弁2項の事実につき判断する。

1  <証拠>を総合すると、以下の事実が認められる。

(一)  新和興産は、三重県伊勢市に本社があり、宅地や別荘地を造成して販売する不動産会社であるところ、昭和五五年の一一月か一二月、新和興産と被告間で、新和興産若しくは新和興産が継続的に販売委託した業者が販売した不動産物件の購入者に対して、被告がローンを組んで融資をするという内容の提携がなされたが、被告における金取引(サラ金のような無担保ローンも含む。)の二〇〜二五パーセントが、このように提携会社から持込まれる融資であった。

(二)  新和興産と被告間の通常の融資手続の流れは、以下のとおりである。

(1) 新和興産から被告に対して、融資についての送付御案内という形で融資申込者が紹介され、ローン申込書、申込者の所得証明、住民票、印鑑登録証明書、物件の登記簿謄本、土地売買契約書のコピーが添付されて送付される。

(2) 被告において、融資申込者の返済能力、返済意思を中心として融資適格を判断する。具体的には融資申込者の会社・自宅に電話して本人であることを確認し、後は住居の家賃、生活費等の支出と収入の関連で返済の可能性を判断する。

(3) 被告が融資適格有りと判断すると、その旨新和興産に通知し、新和興産が主に融資申込者との面接日を指定する。

(4) 面接日には、新和興産の販売委託会社の社員が融資申込者を連れてきて、被告の担当者と面接し、融資を決定する。面接の際に、公正証書作成委任状、抵当権設定契約作成委任状、住民票、印鑑登録証明書、振込依頼書等の交付を受け、新和興産に売買物件の被告への所有権移転仮登記、抵当権設定登記手続を依頼する。なお、被告の支店に一度しか来れない融資申込者については、面接時に金銭消費貸借契約書等の書類にも署名押印してもらい、融資実行日を右契約締結の日とすることもある。

(5) 新和興産は、右手続を終え、各登記済の登記簿謄本を被告に交付する。

(6) 右登記簿謄本を受取った被告は、融資を実行するが、交付された振込依頼書により、金は直接新和興産の銀行口座に振込まれる。

(三)  原告佐野も、右に認定した手続で昭和五九年九月一八日金銭消費貸借契約を締結し、被告から二〇〇万円の融資を受けたが、融資に先立ち池田からは被告の名称や具体的な融資手続についての説明はなく、同年八月二四日にサンライフホームの事務所で池田から、「言われたことに対してハイハイと言うだけでよい。」と教えられ、右同日、被告の名古屋支店において面接による審査を受け、具体的な内容の説明をよく理解しないまま複数の書類に住所・氏名を記載し、印鑑を押した。

(四)  原告青木も、右に認定した手続で昭和五九年四月一二日金銭消費貸借契約を締結し、被告から三〇〇万円の融資を受けたが、融資に先立ち池田からは被告の名称や具体的な融資手続についての説明はなく、同年三月二三日に菱重観光の事務所で池田から、「言われたことに対してハイハイと言うだけでよい。」と教えられ、右同日、被告の名古屋支店において面接による審査を受け、具体的な内容の説明をよく理解しないまま複数の書類に住所・氏名を記載し、印鑑を押した。

2  なお、原告らは、被告に対するローン申込日(面接日)を、原告佐野が昭和五九年九月一八日、原告青木が同年四月一二日であると主張し、<証拠>中にはこれに沿う部分があるが、これらは<証拠>に照らして措信できないし、他に前項の認定を覆すに足りる証拠はない。

3  以上の事実からすると、新和興産と被告は、昭和五五年終りころから継続的な提携関係を続けており、提携関係での被告の融資は、新和興産の販売委託会社と融資申込者の土地売買契約を前提とし、他方、新和興産の販売委託会社と融資申込者の土地売買契約は、被告の融資を前提としているものと認めることができ、また、被告は、新和興産に融資申込者との面接期日の指定や担保権の設定手続の代行を委託している等、手続面で代理人的活動を許容しており、土地売買契約と融資契約とは、法律上は別々の契約とはいえ、互いに他の契約を前提とし、手続的にもつながりが認められる点で、密接不可分な関連があると評価することができる。

4  さらに、<証拠>を総合すると以下の事実が認められる。

(一)  本件土地売買契約締結当時、いわゆる原野商法は社会問題化されており、昭和五八年一〇月には、株式会社太陽ホーム、菱重観光等を相手として損害賠償訴訟が提起され、新聞にも報道されていた。

(二)  菱重観光とサンライフホームは、池田をはじめとして、セールスマン等の人的構成において密接なつながりがある。

(三)  被告が融資申込者の融資適格を判断するに際しては、融資申込者の会社・自宅に電話して本人であることの確認をとるほか、融資申込者の収入と住居の家賃、生活費といった支出とのバランスで返済の可能性を判断し、売買の対象となった不動産物件の売買価格の七割を融資限度としていた。

(四)  被告は、原告佐野の融資適格を判断するに際し、不動産物件価格を売買価格と同じ二九四万円と見て、融資限度をその七割の二〇五万八〇〇〇円と把握し、同原告の一か月の収入一八万円から推定支出一三万二八〇〇円を引いた余力四万七二〇〇円中、月々四万三〇〇〇円の返済が可能と査定した。

(五)  被告は、原告青木の融資適格を判断するに際し、不動産物件価格を売買価格と同じ七〇八万五四〇〇円と見て、融資限度をその七割の四九五万九七八〇円と把握し、同原告の一か月の収入二〇万円から推定支出一〇万四〇〇〇円を引いた余力九万六〇〇〇円中、月々六万一七〇〇円の返済が可能と査定した。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

5  右の事実に照らすと、被告が、新和興産及びその販売委託を受けたサンライフホーム、菱重観光のいわゆる原野商法について全く知らなかったとは考えられず、また、当時の原野商法の社会問題化は、原野商法という悪徳商法の被害の大きさを示すものであり、本件売買契約における時価の二七倍での売買価格が取引相場であった旨の被告の主張は、到底これを肯認することはできない。

6  しかも、証人柴田は、本件売買の対象となった土地の担保価値が実際にどれだけあるかは融資を実行するに際しては二の次であり、融資申込者の一か月の収入から推定支出額を引いた額の範囲内で返済の余力があれば、売買価格の七割を限度として融資を実行する旨証言するが、仮に右のとおりであるとすれば、対象物件に抵当権の設定等を行っていることに殆んど意義を認めていないこととなり、担保価値の把握の仕方は極めて杜撰というほかはないし、融資額の回収不能のリスクを考慮すると、これを通常の金融機関の取る態度というには疑問がある。

もっとも、<証拠>によれば、被告は、新和興産と提携後、三重県志摩郡大王町波切の土地、同郡阿児町鵜方の土地、同郡磯部町日向原の土地等、新和興産の販売物件について現地調査をしており、販売物件の価格については、新和興産の系列以外の現地の業者に電話で聞いて確認していることが認められるから、本件土地の価格についても調査していることも考えられるところである。そうであれば、被告は、本件土地の時価が売買価格に比較して著しく低いことを知っていたことになるし、仮に調査していないとすれば、新和興産の販売物件については新和興産の言うことを鵜のみにしていたということになり、このことは、被告と新和興産との関係が密接不可分であったことの証左ともいえる。

7 以上によれば、結局、被告と新和興産及びその継続的販売委託会社であるサンライフホーム、菱重観光とは、それぞれの存在を前提として本件消費貸借契約及び本件土地売買契約が可能となるものであり、かつ被告は、原野商法の違法性を認識し、あるいは認識し得る状況にあったにもかかわらず、新和興産との提携により得られる経済的メリットゆえに、新和興産と密接不可分の依存関係に立ちながら、新和興産から紹介された原告らに対し、本件土地の担保価値その他の融資適格を適正に判断することなく、原告らの返済能力に比較すると大金である二〇〇万円ないし三〇〇万円の融資をしたものと言うほかなく、このような事情の下では、サンライフホームや菱重観光と被告との関係を新和興産と被告との関係と見ることができ、信義則上被告に対し抗弁の切断という保護を与える必要はないから、原告らがサンライフホーム、菱重観光に対して主張できる本件土地売買契約の無効を被告との消費貸借契約に対する関係においても対抗することができ、支払を拒めるものと解するのが相当である。

五以上の次第で、原告らの本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、強制執行停止決定の認可とその仮執行の宣言につき民事執行法三七条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官芝田俊文)

別紙物件目録

一 三重県志摩郡磯部町山田字小野七六八番二二七

山林 四五平方メートル

二 同所    七六八番二一八

山林 五五平方メートル

三 同所    七六八番二〇六

山林 一三四平方メートル

四 同所    七六八番二〇七

山林 一〇七平方メートル

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